文化財修復と古民家再生

(タイトルと内容を一部加筆しました。)

今、過去を振り返ると自分は色々な事柄に興味を持っていたようだ。小学生の時に仏教美術に惹かれて白鵬仏にのめり込み、中学生で「文化財修復師」に憧れ、土門拳の写真「古寺巡礼」に心奪われた。古寺社や古い文化財の修復への興味もその延長か。特に、「新納忠之助」という人物を知りとても心惹かれる。

彼は、高村光雲の弟子であり東京美術学校(現東京藝術大学)の彫刻科の教授であり自らも彫刻家でもあった。岡倉天心が美術学校を離れて「日本美術院」を設立する時に行動をともにした。岡倉天心から後に奈良の仏像の修復を依頼され以後仏像修復に係るのだが、奈良行の時に死を覚悟したそうだ。失敗したら生きて居られないと。

江戸期までの観念的その時代の様式による修復ではなく周到な観察と記録とを大切にして現在の文化財修復に繋がる修復法を作り上げたのだ。彼の修復法は現状維持と修復が後世の人々に解る手法を取ったのだ。写真が貴重な時代に惜しげもなく修復前と後の写真を何枚も撮り、細かい部分や修復の跡を図に残すという何百年先を見据えた周到な修復を初めて行った。

この事実を知った時の驚きは言葉にならない。基本的に現状を維持する修復といいつつ信仰の対象の仏像であれば所有する寺の要望を聴き欠損した部分を新たに作りそれを付けるが、決して同化させる様な事はしなかったそうで、後の世に研究が進めば欠損部分を取り外し新たな物に付け替えることが出来るようにと。

こういう人物が先達に居たことを知ったことは修復に対する興味を深めた。形だけの修復は出来るかもしれないが、百年、いや千年後に繋げる仕事を構築するのは常人には出来ない。しかし、文化財修復の現場では「新納忠之助」の手法がいまでも受け継がれ更に科学的な方が編み出されている。古文書や絵巻の虫食いを写真に撮りコンピュータに取り込み樹脂シートに虫食いの跡をレーザーでカットし和紙を漉く枠に入れ和紙を漉いて虫食いの跡を埋めるというのだ。然も、放射線を当てて作られた当時と同じょうに劣化させて原本を痛めてないようにしているそうだ。これかからも科学的手法で新たな修復技術が生まれるかも知れない。3Dスキャナーと3Dプリンターによる複製や大きく欠損した仏像の再現など。しかし、科学技術の前に必ず必要なものが人間の経験と知識と手の技術だろう。「新納忠之助」自身が彫刻家で「光雲」や「天心」に学んだことが仏像への深い理解を深め欧米の文化財の保存に対する考えを知り、彫刻の技術を持ち合わせていたからこそなし遂げられたのだろう。

国宝、重文などに指定されている文物はまだまだ至らないとはいえ、こうした修復保存の恩恵を受けられるが、明治以降の民家などはなかなか保存されない。昭和に至っは…                     ごく普通の農家の茅葺き屋根がどんどん失われていく。国なり都道府県や市町村の有形文化財に指定されていれば修理費用が3/4が補助されるそうだが1/4は所有者の負担。まして指定されていなければ全くの自己負担だ。少し話は変わるが、公立や私立の美術館でも規模の小さいところでは資金面でのやり繰りが大変だそうである。例えば東日本大震災で所蔵品が破損してしまっていてもその修復費がなかなか捻出できずに展示を諦めているところもあるそうだ。

又、古民家の再生も大変難しい課題がある。資金と茅葺き屋根の「茅」が入手困難になっている。昔は農村部に当たり前のように茅葺の家が建っていた。集落毎に「茅場」「茅刈り場」と呼ばれる共有地があり集落の茅葺き屋根の吹き替えに備えていた。大規模な吹き替えには集落での共同作業として地域の人々が手伝うのが当たり前だった。戦後は消防法や人手の問題などで次第に茅葺き屋根が減ってしまい「茅場」が放置され荒地となり集落の共有地としての役割を失っている。茅を手に入れるにはごく少数の茅葺保存会などの茅を分けてもらうか、茅葺専門の業者を通して手に入れるかだ。これは工藝の天然材料の入手が難しくなっているのと同じだ。資金が潤沢に有ればなんとかなる話だが、それでも順番待ちだったりする。諦めて公的な管理に移管するものも有れば公的な管理すら受けられない古民家の茅葺は諦めてトタンか瓦屋根に吹きかえるしかない。なんとも寂しい話だ。もう少し国や国民がこういったものに目を向けてくれると大切なものを失われずに済むのだが。一度失われると元に戻すことは難しい。



追記。法隆寺の百済観音像の複製を大英博物館の依頼で新納忠之助は二体作っている。一体は勿論、大英博物館の常設となってもう一体は東京国立博物館に所蔵されている。オリジナルと同じ楠木の一木造りだそうだ。

Welcome to the cermic art world of tadashi wada  工藝 Web個展

陶芸/工藝 和田直の陶芸世界 Web個展を開催。順次作品写真を更新 ブログによる工藝関係の紹介や作品の使用例の紹介 スマートフォン版は右上の三本線をクリックするとHPの他のページが見られます。